FX市場への巨額の資本流入の中には、じつは見過ごされがちなヨーロッパ発の二つの特殊要因が含まれていました。
第一は、ヨーロッパでEU15力国、あるいはユーロ対一力国の間で企業統合が進み、その再編プロセスでアメリカ企業を買収(M&A)する資金が大きく動いたことです。
その代表例がダイムラー・ベンツとクライスラーの合併であり、ドイッチエ・バンクによるバンカース・トラストの買収等でした。
こうした動きは、ドイツのみならずフランスやイタリアの企業でも活発化しました。その結果、直接投資の膨大な資金が一気にアメリカに流入したのです。
第二は、1999年にEUの統一通貨・ユーロが誕生したことにより、ヨーロッパの投資家はそれまでフラン、マルク、リラというふうに域内で分散投資していたのが、不可能になってしまったことです。
分散投資が投資の鉄則であるとすれば、どこかに代替投資先を見つけなければなりません。このとき、投資家たちが一斉に買い求めたのが、ドル資産でした。
この二つの特殊要因にプッシユされて、2001年はヨーロッパから米国に年間でおよそ3000億ドルもの資本が流入しました。一年間の資本流入総額の約四分の三に相当する額がヨーロッパから入ったわけです。
これによりドルの対外価値が上昇したことは言うまでもありません。
しかし、これだけ巨額の資本流入は、経済学でいうストック・アジャストメント、二度と起きない一度限りの調整ととらえるほうが妥当です。
このため、2002年の資本流入は前年を大きく下回ると予想できます。そうなれば、これまではほとんど無視されてきた経常収支の赤字がふたたび問題視され、「ドル安」への圧力要因として浮上することになるのです。
このヨーロッパ発の二つの特殊要因に加えて、世界の金融はもう一つの不安要因を抱えていました。それは2001年に起きたアルゼンチン危機が、2002年に入ってブラジルやウルグアイ、エクアドルなど中南米諸国にまで広がる勢いを示したことです。
場合によってはメキシコにも飛び火するという見方さえあり、米国の内庭と言われるラテン・アメリカ全体が金融危機に陥る可能性もゼロではなくなった。これもまた「ドル安」の大きな要因の1つとみなされました。
こうした多様な角度からの情報を分析し、つなぎ合わせてみると、2002年半ばからの「ドル安」反転は、それなりの理由があってのことでした。潮目の変化に目ざとい一部のヘッジファンドは、すでに2002年の年初から「ドル安」を見越した動きを始めていました。
それに同調する者が一人増え、二人増え、半年後には市場の支配的な流れ(ファッション)になっていったのです。株式市場や債券市場と同じように、為替市場もまた市場参加者のかなりの部分がそう思った段階で、相場の流れがはっきりと変わることを示し
ています。
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